失神・失神性めまい1 病態と言葉の説明

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失神・失神性めまいとは

失神(syncope:シンコピーと発音)とは一過性の意識消失で、その意識消失の時間は一般的には数分以下である。それに対して、失神性めまい(fainting)とは意識消失を伴わず失神の前段階であり、失神性めまいの症状は、失神感(気を失いそうになる、気が遠くなる)や眼前暗黒感(目の前が真っ暗になる)である。失神と失神性めまいの違いは意識消失を伴うか否かであるが、これらは連続した同じ病態であり逆に区別するのも難しい。そのため、原因診断・治療についてもこれらは同様に考えるべきであり、そのほうが理解しやすい。

失神・失神性めまいの病態

失神・失神性めまいの主病態は、一過性の脳循環不全であり、大部分がこの病態によるものである(図1・A)。しかし、一部は一過性の意識の系の障害(図1・B)によって起こり、脳血管障害が原因で起こる失神・失神性めまいなどはこの機序によるものである。この一過性の意識の系の障害で起こる失神・失神性めまいの頻度は低い。失神・失神性めまいの本来の概念(狭義の概念)は、前述した一過性の脳循環不全が原因の病態(図1・A)を意味し、一過性の意識の系の障害によって起こる病態(図1・B)は含まない。しかし、臨床的には原因診断がつくまではどちらの病態が原因なのかわからないため、一過性の意識消失や失神感・眼前暗黒感が出現したものは失神・失神性めまいとしてとりあつかうべきである。

【図1】失神・失神性めまいの病態
失神図1

失神・失神性めまいと意識障害の違い

失神・失神性めまいとよく似た症候に意識障害があるが、これらの違いについては既に意識障害の項で説明をしているので意識障害の項を参考していただきたい。整理復習の意味で、意識障害、失神、失神性めまいの概念、意識消失時間、病態の違いを表1に、意識の系の障害と脳循環不全の違いを表2示す。

【表1】意識障害と失神・失神性めまいの違い
失神表1
【表2】意識の系の障害と脳循環不全の違い
意識の系の障害

  1. 脳循環血液量は正常であるが、脳の機能(意識の系)が脱落したもの。
  2. 意識障害の場合は大部分がこの病態(主病態)で、かつ持続的である。
  3. 失神・失神性めまいの場合は一部にこの病態がみられ(副病態)、かつ一過性である。

脳循環不全

  1. 元々、脳の機能(意識の系)は正常であったが、脳循環血液量が低下するため最終的に脳の機能(意識の系)が脱落したもの。
  2. 失神・失神性めまいの場合の大部分がこの病態(主病態)で、かつ一過性である。
  3. 意識障害の場合は一部にこの病態がみられ(副病態)、かつ持続的である。具体的にはショックが原因による意識障害がこれにあたる。

失神・失神性めまいとショックの違い

失神・失神性めまいの主病態は一過性の脳循環不全であることを前述したが、ここではショック(全身循環不全)との病態の違いを説明する。ショックとは全身性に循環不全が起こった全身循環不全であることをショックの項で説明した。つまり、失神・失神性めまいもショックも循環不全という同じ病態であり、循環不全が比較的一過性の脳循環不全に止まった場合が失神・失神性めまいで、脳循環不全も含めて全身循環不全にまで至ったものがショックである。
ショックの場合の脳循環不全は一般的には持続的で意識障害となる。循環不全としての重篤度は当然ショックのほうが失神・失神性めまいよりも高い。言い換えれば、失神・失神性めまいとショックは循環不全という連続した病態であり、失神・失神性めまいはショックの前兆とも言える、また、原因によっては一気にショックまで進行することも珍しくないので注意を要する。

脳循環不全と脳虚血の違い

失神・失神性めまいの主病態が一過性の脳循環不全であることを前述した。ここでは、脳循環不全と脳虚血の違いについて説明を加える。脳循環不全とは、脳全体の循環血液量の減少が原因で、意識消失やその前段階になった病態で、失神・失神性めまいが起こる。それに対して、脳虚血とは、脳血管の一部に狭窄・閉塞があり、その血管領域の血流減少の結果、その領域の神経症状(巣症状)が出現した病態であり、脳梗塞や一過性脳虚血発作が起こる。これらの違いは図2のとおりである。

【図2】脳循環不全と脳虚血
失神図2

失神性めまいと前庭性めまい(回転性めまい・浮動性めまい)との違い

1)めまいの分類総論

めまいの分類を表3に示す。まず、めまいはその性状により、1)回転性めまい(vertigo)、2)浮動性めまい(dizziness)、3)失神性めまい(fainting)、の3つに大別される。回転性めまいとは回転感を伴うめまいで、「くるくる回る。」という訴えが一般的である。浮動性めまいとは、浮遊感を伴うめまいで、「ふわふわする。」、「ふらふらする。」という訴えが一般的である。失神性めまいとは失神感を伴うめまいで、「気を失いそうになる。」、「気が遠くなる。」、「眼の前が真っ暗になった(眼前暗黒感)。」という訴えが一般的である。
これら3つのめまいを原因診断の目的で2つに分類する方法が2種類ある。一つの分類法は、回転性めまいと非回転性めまい、に分類する方法で、もう一つは、前庭性めまいと失神性めまい(非前庭性めまい)、に分類する方法である。

【表3】めまいの分類
失神表3

2)回転性めまいと非回転性めまい

めまいは、回転感を伴うか否かで、回転性と非回転性に分けられる。浮動性めまいと失神性めまいを合わせて非回転性めまいという。回転性と非回転性で分けるこの分類は、臨床現場でめまいの原因診断を性状分類からアプローチしていく過程で重要な概念になる(詳細は前庭性めまいの項を参照)。ちなみに、最も狭義のめまいは、この回転性めまいのみを指す。

めまい3 前庭性めまいの原因診断とその疾患

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めまい2 前庭性めまいのメカニズムと症状

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めまい1 めまいの分類と鑑別

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3)前庭性めまいと失神性めまい

めまいは、原因病態が前庭系の障害で起こるか否かで、前庭性か非前庭性に分けられる。回転性めまいと浮動性めまいを合わせて前庭性めまい、失神性めまいは非前庭性めまいとなる。前庭性めまいは前庭系の障害で起こる平衡感覚異常であり、失神性めまい(非前庭性めまい)は前庭系の障害ではなく主に脳循環不全により起こるものである。前庭性と失神性(非前庭性)で分けるこの分類は、原因診断を行う上で重要な概念で、一般的に使われているめまいという言葉は、この前庭性めまいのことが多い。尚、前庭性めまいは、前庭系の障害部位により、中枢性めまい、末梢性めまい、その他、の3つに分けられる。詳細は前庭性めまいの項を参照していただきたい。
臨床現場でめまいの原因診断を行う場合、まず、めまいを前庭性めまい(回転性または浮動性めまい)か、失神性めまい(非前庭性めまい)に分けることが重要である。なぜなら、これら2つのめまいは機序が異なるため鑑別診断が全く異なってくるからだ。めまいの分類を臨床的分類と原因病態で対比したものが表4である。

【表4】めまいの臨床的分類と原因病態
失神表3
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福岡記念病院救急科部長。一般社団法人・福岡博多トレーニングセンター(福岡博多TC)理事長。 愛媛県生まれ、1986年愛媛大学医学部医学科卒。日本救急医学会専門医、日本脳神経外科学会専門医、臨床研修指導医。医学部卒業後、最初の約10年間は脳神経外科医、その後の約20年間は救急医(ER型救急医)として勤務し、「ER型救急システム」を構築する。1990年代後半からはBLS・ACLS(心肺停止・呼吸停止・不整脈・急性冠症候群・脳卒中の初期診療)の救急医学教育にも従事。2011年に一般社団法人・福岡博多トレーニングセンターを設立し理事長として現在に至る。主な著書に、『ニッポンER』(海拓舎)、『心肺停止と不整脈』(日経BP)、『ERで役立つ救急症候学』(CBR)などがある。