脳梗塞の治療

脳梗塞治療の考え方

脳梗塞は原因の如何に関わらず、急性期治療の後で症状が残ってしまうとその症状の改善は難しい。そのため2000年以後は症状が残らないようにするための急性期治療が脳梗塞治療のメインテーマとなった。これについては後述する。しかし、症状が残ってしまった慢性期の場合は再発予防が治療の目的であり、ラクナ梗塞、アテローム血栓性梗塞の場合は抗血小板療法(アスピリンなど)5)を、心原性梗塞の場合は抗凝固療法(ワーファリンなど)を行う。

脳梗塞の急性期治療

1)脳梗塞急性期治療の方法

2000年以後の脳梗塞治療のメインテーマは、症状が残らないようにするための急性期治療をどうするかとなった。具体的には、アメリカ心臓協会(AHA: American Heart Association)のガイドライン2000(G-2000以後、急性期脳梗塞治療のメインテーマは、発症後3時間以内の脳梗塞に対してrt-PA(アルテプラーゼ)を使った経静脈的線溶療法を行うシステムとプロトコールの確立である。

その後、AHAのガイドライン2010(G-2010では発症後3~4.5時間以内の脳梗塞に対しても経静脈的線溶療法を許容している7)。また、脳卒中ガイドライン2009(日本)では、発症後3~6時間以内で、神経脱落症状を有する中大脳動脈塞栓性閉塞において、来院時の症候が中等度以下で、CT上梗塞を認めないか微妙な梗塞にとどまる場合は経動脈的線溶療法も許容している8)。

いずれにしても脳梗塞急性期に対しては、発症後3時間以内に経静脈的線溶療法を行なうことが原則である。そのための方策として、AHAは脳卒中の救命の連鎖(The 8 D’s of Stroke Care表9)9)を提唱しており、これは急性期脳梗塞治療のアルゴリズムである。

【表9】脳卒中の救命の連鎖(The 8 D’s of Stroke Care

脳卒中の救命の連鎖

2)脳梗塞急性期治療の適応

線溶療法適応の主項目は10のとおりである。線溶療法を行う場合の最も重篤な合併症は脳出血であり、それを防ぐためには出血傾向および出血性要因の除外高血圧の除外が最も重要である。10中の出血傾向および出血性要因の除外と、高血圧の除外はその意味である。線溶療法における血圧の管理は非常に重要で、血圧を185/110以下に維持しなければrt-PAを使った線溶療法の適応にはならない7)。また、線溶療法の後24時間以内は抗凝固療法も抗血小板療法も行なってはならない。

【表10】線溶療法チェックリストの主な項目

1、年齢(18歳以上)

2、発症後3時間以内

3、出血性脳卒中の除外

4、痙攣(てんかん)の除外

5、低血糖の除外

6、一過性脳虚血発作の除外

7、超重症脳梗塞の除外

8、出血傾向および出血性要因の除外

9、高血圧の除外(収縮期血圧>185mmHg、または拡張期血圧>110mmHg)

3)脳梗塞急性期治療に対する予後

発症後3時間以内の虚血性脳卒中に対して経静脈的線溶療法を行った場合の一般的症状消失率・改善率は約30%、脳出血(頭蓋内出血)の合併率は約5%である7)。経静脈的線溶療法による症状消失率・改善率は、軽症ほど、また、治療開始が早いほど高く、発症後3時間以内の経静脈的線溶療法の最もよい適応はNIHSS(National Institute of Health stoke scale:NIH脳卒中スケール)の5~22点とされている。特に、10点未満は比較的良好な転帰をたどっている。