巣症状-大脳半球の局所障害による症状について-

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巣症状の概念と鑑別診断

 巣症状(focal sign)とは、大脳半球の一部(局所)が障害されることにより生じる症状のことで、局所症状ともいう。具体的には、片麻痺(hemiplegia)が最も多く、他には言語障害(speech disturbance)や視野障害(visual field disturbance)などがある。ちなみに、大脳半球が全体的に障害された場合は意識障害となり、この場合は巣症状とは言わない。突然の巣症状を認めた場合は原因疾患として脳疾患を第一に考えるべきであるが、全てが脳疾患によるものではない。最も多い原因は脳梗塞で、次が脳出血である。この2つで原因の大部分を占める。巣症状の代表的な症状である片麻痺(突然の片麻痺)の鑑別診断は表1のとおりである。

【表1】突然の片麻痺の鑑別診断

  1. 脳梗塞(脳血栓症、脳塞栓症、脳動脈解離、脳血管攣縮、胸部大動脈解離)
  2. 脳出血
  3. 低血糖
  4. 痙攣(てんかん)
  5. 慢性硬膜下血腫
  6. 脳腫瘍、脳膿瘍
  7. その他(高血圧性脳症、高浸透圧高血糖症候群)
 前述したように突然の巣症状の原因の大部分は脳梗塞と脳出血であるが、他に考えなければならない重要な原因疾患に低血糖と痙攣(てんかん)がある。これらの頻度は決して少くない。つまり、片麻痺などの突然の巣症状を確認した場合は脳卒中(脳梗塞、脳出血)を第一に考えなければならないが、脳卒中を考えた場合の否定項目として低血糖と痙攣(てんかん)が存在する。もう一つ頻度は低いが重要な問題として、胸部大動脈解離による脳梗塞がある。これは胸部大動脈解離が原因で総頸動脈の閉塞・狭窄が起こり、その結果片麻痺がみられるものである。これは脳動脈の狭窄・閉塞による脳梗塞とは治療が違ってくるため脳梗塞の原因疾患の鑑別として重要である。
低血糖による片麻痺は、血糖値が比較的緩やかに下がってきた場合、血糖値に対する両大脳半球の閾値の違いから優位半球の症状が先に出現するため片麻痺が起こる。日本人の優位半球は大部分が左側であるため、大部分は右片麻痺となる。また、痙攣(てんかん)が原因で起こる片麻痺の代表的なものがJackson型発作によるTodd麻痺である。
ところで、低血糖が起きた場合の症状を表2に整理する。

【表2】低血糖の症状

  1. 意識消失:意識障害、痙攣、失神・失神性めまい
  2. 巣症状:片麻痺、言語障害
  3. 血圧低下:ショック、心肺停止
意識消失に関与するものとしては、意識障害、痙攣、失神・失神性めまい、巣症状に関与するものとしては片麻痺、言語障害、血圧低下に関与するものとしてはショック、心肺停止がある。これらの主訴・症候をみたときは必ず鑑別診断の一つに低血糖を考えておかなければならない。

麻痺

 麻痺とは四肢の最低一つが自分の意思で動かなくなった状態をいう。麻痺の分類は図1のとおりで、それぞれの麻痺の障害部位と主な原因疾患は表3のとおりである。

【図1】麻痺の分類
巣症状
【表3】麻痺の分類と障害部位・原因疾患

  1. 片麻痺
    • 障害部位:内包、大脳皮質、(脳幹)
    • 症状:脳梗塞、脳出血、低血糖、痙攣、慢性硬膜下血腫、脳腫瘍、脳膿瘍
  2. 交代性片麻痺
    • 障害部位:橋
    • 症状:脳出血、脳梗塞
  3. 四肢麻痺
    • 障害部位:脳幹
    • 症状:脳出血、脳梗塞
    • 障害部位:上位頸髄
    • 症状:脊髄疾患
  4. 対麻痺
    • 障害部位:下位頸髄、胸髄、腰髄
    • 症状:脊髄疾患
    • 障害部位:(大脳半球間裂周囲病変)
    • 症状:(脳腫瘍、くも膜下出血)
  5. 単麻痺
    • 障害部位:末梢神経
    • 症状:ギラン・バレー症候群、脊髄神経根損傷

この中で内因性救急疾患が原因となる麻痺の大部分は片麻痺で、その原因疾患の大部分は前述したとおり脳梗塞、脳出血である。障害部位で最も多いのは内包で、ラクナ梗塞(穿通枝梗塞)、被殻出血、視床出血などが原因で障害される。次に多い障害部位は大脳皮質で、アテローム血栓性梗塞、心原性梗塞、皮質下出血などが原因で障害される。時に、小さい脳幹出血や脳幹梗塞が原因で片麻痺を起こす場合がある。
内因性救急疾患が原因となる麻痺で2番目に多いのが四肢麻痺で、その原因は大部分が脳幹出血や脳幹梗塞である。他に脳疾患が原因で起こる麻痺に交代性片麻痺と対麻痺がある。交代性片麻痺とは、患側の顔面神経麻痺と健側の片麻痺(上下肢麻痺)を認めたものをいい、橋の脳梗塞や脳出血が原因で起こる。対麻痺はほとんどが脊髄疾患であるが稀に大脳間裂部の脳腫瘍やくも膜下出血などでみられる場合がある。これは中心前回にある運動野の下肢の中枢が両側大脳間裂部にあるためそこに病巣がある場合に起こる。

言語障害

 言語障害とは何らかの原因で正常に言葉をしゃべることができない状態をいう。言語障害の分類・障害部位・症状は表4のとおりである。

【表4】言語障害の分類と障害部位・症状                          

  1. 失語
    1. 1)運動性失語
      • 障害部位:大脳皮質(ブローカー中枢)
      • 症状:言語を作れない
    2. 2)感覚性失語
      • 障害部位:大脳皮質(ウェルニッケ中枢)
      • 症状:言語を理解できない
  2. 失調性言語障害
    • 障害部位:小脳
    • 症状:失調性
  3. 構語障害
    • 障害部位:内包、大脳皮質(運動野)、脳幹
    • 症状:呂律困難(球麻痺)
最も多い言語障害は構語障害(呂律困難)で脳梗塞や脳出血による内包・大脳皮質(運動野)・脳幹の障害で起こる。他には、優位半球の言語野(運動性言語野、感覚性言語野)領域を含む脳梗塞・脳出血などでみられる失語や、小脳障害でみられる失調性言語障害がある。

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ABOUTこの記事をかいた人

福岡記念病院救急科部長。一般社団法人・福岡博多トレーニングセンター(福岡博多TC)理事長。 愛媛県生まれ、1986年愛媛大学医学部医学科卒。日本救急医学会専門医、日本脳神経外科学会専門医、臨床研修指導医。医学部卒業後、最初の約10年間は脳神経外科医、その後の約20年間は救急医(ER型救急医)として勤務し、「ER型救急システム」を構築する。1990年代後半からはBLS・ACLS(心肺停止・呼吸停止・不整脈・急性冠症候群・脳卒中の初期診療)の救急医学教育にも従事。2011年に一般社団法人・福岡博多トレーニングセンターを設立し理事長として現在に至る。主な著書に、『ニッポンER』(海拓舎)、『心肺停止と不整脈』(日経BP)、『ERで役立つ救急症候学』(CBR)などがある。