意識障害3 意識障害の鑑別診断と診断法を詳しく解説

スポンサーリンク

意識障害の鑑別診断と診断法

1)鑑別診断と診断法の全体像

意識障害の鑑別診断を表8、表9に示す。どちらを採用しても差し支えないので2つを提示した。

【表8】意識障害の鑑別診断1(病態別)

  1. 脳疾患
     1、脳卒中
    1)脳梗塞
    2)脳出血
    3)くも膜下出血
     2、中枢神経系感染症
    1)髄膜炎・脳炎
    2)脳膿瘍
     3、慢性硬膜下血腫
     4、脳腫瘍またはそれによる水頭症
     5、てんかん
  2. 脳症
     1、アルコール関連
    1)急性アルコール中毒
    2)Wernike脳症(ビタミンB1欠乏症)
    3)アルコール離脱症候群
     2、血糖異常
      1)低血糖
    2)糖尿病性ケトアシドーシス
    3)非ケトン性高浸透圧症候群
     3、水・電解質異常
    1)脱水
    2)水中毒
    3)高/低Na血症
    4)高/低K血症
    5)高/低Mg血症
    6)高/低Ca血症
     4、高血圧性脳症
     5、肺性脳症
    1)低酸素血症
    2)高二酸化炭素血症
    3)過換気症候群
     6、肝性脳症
     7、腎性脳症(尿毒症)
     8、感染症
    1)敗血症
    2)肺炎
    9、内分泌疾患
    1)甲状腺クリーゼ(甲状腺機能亢進症)
    2)粘液水腫(甲状腺機能低下症)
    3)副甲状腺クリーゼ(副甲状腺機能亢進症)
    4)副腎クリーゼ(急性副腎不全)
  3. その他
    1、体温異常
      1)低体温(偶発性低体温)
      2)高体温(熱中症、悪性症候群など)
    2、薬物中毒、薬物以外の中毒(CO中毒)
    3、精神疾患
    4、ショックまたはショックの原因疾患
【表9】意識障害の鑑別診断2(AIUEOTIPS)
アイウエオチップス
前者は病態別の分類であり、後者は意識障害の鑑別診断としてよく使われるAIUEOTIPS(アイウエオティップス)を一部改訂したものである。ここで述べる意識障害の診断法は、表8の意識障害の鑑別診断1(病態別)を基に行っていく。各鑑別疾患の要点は後述しているので参照していただきたい。
意識障害の原因疾患は、脳(神経系)疾患、代謝・内分泌系疾患、循環器系疾患、呼吸器系疾患、消化器系疾患、腎疾患、感染症、精神疾患、中毒、頭部外傷、環境異常疾患など非常に多い。意識障害の原因診断が難しい理由は、このように原因疾患が多く多岐にわたることと、意識障害患者本人ときちんとしたコミュニケーションが取りにくいことが挙げられる。前者への対応法は全身診察の意義と方法論を身につけることであり、後者への対応法は、患者の訴え以外の情報(家族などからの状況説明、既往歴やバイタルサイン、身体所見)を正確に入手することである。
意識障害の鑑別診断順序に決まりはないが、たくさんの鑑別診断を合理的に診断していくためにはある一定のルールを作っておくと誤診が少なくなる。そこで筆者が行っている一般的な診断方法を紹介する。診断順序は表10のとおりである。勿論、病歴から原因疾患が確定できる場合はここで述べる順番にとらわれる必要はない。
【表10】意識障害の鑑別診断法

Ⅰ、第1グループ(バイタルサイン異常と低血糖)
 1、ショック
 2、低酸素血症・高二酸化炭素血症(呼吸不全)
 3、低血糖
 4、低体温(偶発性低体温)
Ⅱ、第2グループ(脳疾患)
 1、脳卒中(脳梗塞、脳出血、くも膜下出血)
 2、中枢神経系感染症(髄膜炎・脳炎、脳膿瘍)
 3、慢性硬膜下血腫
 4、脳腫瘍またはそれによる水頭症
 5、てんかん
Ⅲ、第3グループ(脳症一般)
 1、アルコール関連(急性アルコール中毒、Wernike脳症、アルコール離脱症候群)
 2、高血糖(糖尿病性ケトアシドーシス、非ケトン性高浸透圧症候群)
 3、水・電解質異常(脱水、水中毒、高/低Na・K・Mg・Ca血症)
 4、高血圧性脳症
 5、過換気症候群
 6、肝性脳症
 7、腎性脳症(尿毒症)
 8、感染症(敗血症、肺炎)
 9、高体温(熱中症、悪性症候群など)
 10、内分泌疾患(甲状腺クリーゼ、粘液水腫、副甲状腺クリーゼ、副腎クリーゼ)
Ⅳ、第4グループ(薬物中毒、精神疾患)
 1、薬物中毒、薬物以外の中毒(CO中毒)
 2、精神疾患

2)第1グループの鑑別

鑑別の第1グループは意識以外のバイタルサインに異常が現れている疾患群と低血糖である。つまり、ショック、低酸素血症・高二酸化炭素血症(呼吸不全)、低血糖、低体温(核心温度32℃以下)である。このグループに属するものは意識障害の原因疾患の中で最も緊急度が高い。意識障害=脳疾患、と短絡的に考えられがちであるが、特にショックの場合は、脳疾患にショックなし、を肝に銘じておいて欲しい。
まず来院時に、バイタルサインと病歴(症状も含む)聴取を行うが、血液ガス、簡易的血糖検査、一般血液検査(CBC、生化学、アンモニア)、心電図、胸部X-Pは一般的に必須となる。この中で一般血液検査以外は至急で結果を出すことができる。ショック、低酸素血症・高二酸化炭素血症(呼吸不全)についての診断詳細はそれぞれの項を参照していただきたい。
低酸素血症(呼吸不全)の場合は必要なら気管挿管を行い十分な酸素投与を行いながらその原因診断および初期治療を、低血糖の場合は採血後50%ブドウ糖40ml(2A)の静注を、低体温の場合は復温(電気毛布、加熱した輸液など)を行いながらそれに至った原因検索を直ちに行わなければならない。

3)第2グループの鑑別

意識障害の原因が第1グループの疾患群ではない場合は第2グループの鑑別に移る。第2グループは脳疾患の鑑別である。頭部CTが必須となるが、必要であればMRI・MRAも施行しなければならない。
意識障害の病歴として、意識障害を起こす前までは全く問題ないにも関わらず、一気に昏睡になったり倒れたりしていないかを確認する。かつ、片麻痺などの脳の巣症状がない場合は、くも膜下出血かてんかんが考えられる。意識障害がひどい場合は尿失禁・便失禁がみられることが多い。ちなみに、てんかんは痙攣が必ずしも起こるわけではない。
意識障害の経過や重症度に関わらず、片麻痺などの脳の巣症状があれば、脳梗塞、脳出血、慢性硬膜下血腫、脳腫瘍、脳膿瘍を、発熱があれば髄膜炎・脳炎を、痙攣がみられればてんかんを考えなければならない。ところで、一般論として、片麻痺などの脳の巣症状をみたときは必ず低血糖を除外しなければならない。今回の診断法でいけば、低血糖は第1グループの鑑別診断に入るのでそこで否定されているはずである。髄膜炎・脳炎を疑えば腰椎穿刺を、てんかんを疑えば脳波が必須となる。髄膜炎・脳炎、てんかん以外の脳疾患は頭部CT、必要ならMRI・MRAで診断が可能である。

4)第3グループの鑑別

意識障害の原因が第1・第2グループの疾患群ではない場合は第3グループの鑑別に移る。第3グループは脳症一般で、薬物中毒(CO中毒も含む)、精神科疾患以外の残りの疾患群である。つまり、アルコール関連疾患(急性アルコール中毒、Wernike脳症、アルコール離脱症候群)、高血糖疾患(糖尿病性ケトアシドーシス、非ケトン性高浸透圧症候群)、水・電解質異常(脱水、水中毒、高/低Na血症、高/低K血症、高/低Mg血症、高/低Ca血症)、高血圧性脳症、過換気症候群、肝性脳症、尿毒症、感染症(敗血症、肺炎)、高体温疾患(熱中症など)、内分泌疾患である。既往歴をベースにした病歴聴取や血液検査結果から第3グループ疾患の要点をチェックする。ここでは鑑別疾患の要点整理を参照していただきたい。ここまでくると大部分鑑別疾患をしぼることが可能になる。ところで、高齢者の場合は脱水、感染症が軽度な場合でも、ボーとしている、反応が鈍いというような状態が起こる。特に高齢者の意識障害では、これらの疾患に気をつける必要がある。
Wernike脳症が疑われる場合はビタミンB1を採血後にサイアミン100mgの静注を、高血糖疾患の場合は、脱水補正とインスリンの投与を、高血圧性脳症の場合は降圧を、敗血症が疑われる場合は血液培養を、内分泌疾患が疑われる場合はホルモン検査が必要となる。なお、意識障害の原因疾患としての内分泌疾患の頻度は低い。

5)第4グループの鑑別

最後に第4グループの鑑別に移る。第4グループは薬物中毒(CO中毒も含む)、精神疾患である。意識障害の診断で難しいもの一つに薬物中毒がある。薬物中毒は薬物投与(内服)の事実または疑いがあれば疑うことは容易であるが、全くそのようなことがない場合でも否定できない。日本で最も頻度が高い使用薬物はベンゾジアゼピン系である。薬物中毒は尿検査でトライエージキットにて診断可能である(表11)。ただ、偽陽性もあり判断が難しい場合がある。いずれにしても、良くわからない意識障害患者は必ず薬物中毒を疑い、尿検査をするべきである。最後の精神疾患の診断には既往歴だけではなく器質的疾患の除外が必要条件となる。

【表11】トライエージキットで検査できる薬物

  1. フェンシクリジン(PCP)
  2. コカイン系麻薬(COC)
  3. 覚醒剤(AMP)
  4. 大麻(THC)
  5. モルヒネ系麻薬(OPI)
  6. バルビツール酸類(BAR)
  7. ベンゾジアゼピン類(BZO)
  8. 三環系抗うつ剤(TCA)
スポンサーリンク

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

ABOUTこの記事をかいた人

福岡記念病院救急科部長。一般社団法人・福岡博多トレーニングセンター(福岡博多TC)理事長。 愛媛県生まれ、1986年愛媛大学医学部医学科卒。日本救急医学会専門医、日本脳神経外科学会専門医、臨床研修指導医。医学部卒業後、最初の約10年間は脳神経外科医、その後の約20年間は救急医(ER型救急医)として勤務し、「ER型救急システム」を構築する。1990年代後半からはBLS・ACLS(心肺停止・呼吸停止・不整脈・急性冠症候群・脳卒中の初期診療)の救急医学教育にも従事。2011年に一般社団法人・福岡博多トレーニングセンターを設立し理事長として現在に至る。主な著書に、『ニッポンER』(海拓舎)、『心肺停止と不整脈』(日経BP)、『ERで役立つ救急症候学』(CBR)などがある。