胸部症状1 胸痛とその鑑別診断

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胸部症状(胸痛、呼吸困難、動悸)

胸部症状といわれるものには1)胸痛(chest pain)、2)呼吸困難(dyspnea)、3)動悸(palpitation)、がある。これらの症状が同時に重複して出現する場合もあり、原因疾患を考える場合、これらの鑑別診断の複数項を一緒に鑑別しなければならない場合も珍しくない。そういう理由から、この項ではまず胸痛について説明していく。呼吸困難、動悸については他の記事で説明しているのでそちらを参照してほしい。

胸部症状2 呼吸困難とその鑑別診断

2016.09.17

胸部症状3 動悸とその鑑別診断

2016.09.18

胸痛とは

胸部の疼痛を胸痛という。また、患者の訴えとして「胸部が不快(胸部不快感がある)。」、「胸が苦しい。」、という言い方をする場合もあるが、これらも胸痛の範疇として対応するべきである。最も重要かつ重篤な胸痛は虚血性心疾患(特に急性冠症候群)が原因による虚血性胸痛(典型的には絞やく感を伴う胸骨の奥の疼痛)であり、胸痛の原因の大部分は胸部臓器の疾患である。しかし、腹部疾患の放散痛として胸痛を訴える場合もあり、胸痛の原因疾患が全て胸部臓器の疾患とは限らない。

胸痛の鑑別診断

胸痛の鑑別診断は表1のとおりである。

【表1】胸痛の鑑別診断

  1. 生命予後に関与する重篤疾患
    1、虚血性心疾患(特に急性冠症候群)
    2、胸部大動脈解離
    3、肺塞栓症
    4、心タンポナーデ(急性心膜炎)
    5、気胸(特に緊張性気胸)
    6、特発性食道破裂(Boerhaave症候群)
  2. 「1」以外の循環器疾患
    1、急性心膜炎
    2、急性心筋炎
    3、不整脈(徐脈、頻拍)
    4、たこつぼ型心筋障害(心筋症)
    5、その他(心臓弁膜症、肥大型心筋症など)
  3. 循環器疾患以外の胸郭内疾患
    1、胸膜炎
    2、縦隔気腫
    3、逆流性食道炎(胃食道逆流症)
  4. その他
    1、消化器疾患(消化性潰瘍、胆石症、急性膵炎など)
    2、帯状疱疹
    3、肋間神経痛
    4、心臓神経症
胸痛の原因疾患には生命予後に直接関与する疾患が多く含まれているため、原因診断として第一に考えないといけない疾患は生命予後に関与する重篤疾患群である。この重篤疾患群とは、1)虚血性心疾患(特に急性冠症候群)、2)胸部大動脈解離、3)肺塞栓症、4)心タンポナーデ(急性心膜炎)、5)気胸(特に緊張性気胸)、6)特発性食道破裂(Boerhaave症候群)、の6疾患で、中でも重篤度・頻度的に最も重要な疾患は虚血性心疾患(特に急性冠症候群)である。まず、生命予後に関与する重篤疾患群に含まれる6疾患をこの順番で鑑別するべきである。心電図・胸部X-Pは必須で、心エコー・胸部CTが必要な場合も多い。この6疾患でなければ、残りの原因疾患を循環器疾患・胸郭内疾患・その他の順番で鑑別していくべきである。
胸痛の原因疾患の要点については、虚血性心疾患は急性冠症候群の項を、不整脈については不整脈の項を、気胸については呼吸不全の項を参照していただきたい。また、大動脈解離、肺塞栓症、心タンポナーデ、特発性食道破裂(Boerhaave症候群)、急性心膜炎、急性心筋炎、たこつぼ型心筋障害(心筋症)、胸膜炎、縦隔気腫、逆流性食道炎(胃食道逆流症)についての要点は表2~11のとおりである。
【表2】大動脈解離の要点

    • 概念

大動脈の中膜が内外2層に解離して偽腔(解離腔)が生じたもの

  • <分類/li>
      1. 解離部位での分類

    1、胸部大動脈解離(大部分)
    2、腹部大動脈解離

      1. 入口部(エントリー)での分類:DeBakey分類

    Ⅰ型:入口部が上行大動脈にあり、腹部大動脈まで広範囲の解離
    Ⅱ型:入口部が上行大動脈にあり、解離が上行大動脈に限局
    Ⅲa型:入口部が左鎖骨下動脈直下にあり、解離が胸部大動脈に限局
    Ⅲb型:入口部が左鎖骨下動脈直下にあり、解離が腹部大動脈までおよぶ

      1. 解離の範囲での分類:Stanford分類

    A型:解離範囲が上行大動脈から左鎖骨下動脈までを含んでいる
    (左鎖骨下動脈直下より抹消部を含んでいる場合と含まない場合がある)
    B型:解離範囲が左鎖骨下動脈以下
    (上行大動脈から左鎖骨下動脈までを含んでいない)

  • 症状
  • 突然の胸背部痛、疼痛部位の移動、意識障害・失神など
  • 既往歴
  • 高血圧既往者が多い
  • 合併症
  • 1、心臓
    1)心タンポナーデ
    2)大動脈弁閉鎖不全症、それによる左心不全
    3)心筋梗塞
    2、頸動脈病変:脳梗塞(片麻痺、意識障害など)
    3、鎖骨下動脈病変:血圧の左右差
    4、脊髄動脈病変:脊髄梗塞(対麻痺など)
    5、腹腔動脈病変:肝不全、消化性潰瘍
    6、腸管動脈病変:腸管虚血、イレウス
    7、腎動脈病変:腎梗塞(腎血管性高血圧、急性腎不全)
    8、腸骨動脈病変:間欠性
【表3】肺塞栓症の要点

    • 概念

静脈血中にできた血栓(大部分は骨盤部や下肢の深部静脈血栓)が静脈から
右心を通り、肺動脈が閉塞、狭窄したことにより低酸素血症を起こしたもの

    • 原因

長期臥床、長時間の同体位座位、肥満、妊娠、手術(特に整形外科手術)、
外傷・骨折、経口避妊薬など

    • 症状

最も多いものは呼吸困難、他に胸痛(吸気時に増強)、失神、動悸など

    • 所見

頻呼吸、頸静脈怒張(右心不全徴候)

    • 動脈血ガス

PaO2低下、PaCO2低下、呼吸性アルカローシス

    • 血液検査

FDP上昇、Dダイマー上昇

    • 心電図

洞性頻拍、SⅠQⅢTⅢ、右軸偏位、右脚ブロック、胸部誘導の陰性Tなど

    • 心エコー

右室負荷所見(右心拡大など)

    • 胸部X-P

心陰影の拡大、胸水貯留(少量が多い)、
障害が大きい場合はKnuckle sign、Westermark sign

【表4】心タンポナーデの要点

      • 概念

心膜腔内には生理的に15~30mlの心膜液が存在するが、
それを超えて大量の心膜液が貯留し、
心室拡張障害・静脈還流障害を起こしたもの

      • 原因

急性心膜炎、胸部大動脈解離、心筋梗塞(心筋梗塞後の心破裂)

      • 症状

胸痛、呼吸困難、動悸など

      • 所見

心音減弱、奇脈(吸気時に呼気時より、収縮期圧が10mmHg以上の低下)、頸静脈怒張、心拍数上昇、静脈圧上昇、ショック(閉塞性ショック)、など

      • 胸部X-P

きんちゃく型心陰影の拡大

      • 心エコー

心膜腔にecho-free space

      • 治療

心膜腔穿刺による排液

【表5】特発性食道破裂(Boerhaave症候群)の要点

  • 概念
  • 食道に器質的疾患や直接外力がないにもかかわらず、突発的に食道全層が断裂する疾患。1724年にBoerhaave(ブールハヴィー)により報告されたためBoerhaave症候群ともいう。

  • 疫学
  • 下部食道左側に好発、大部分が中年男性

  • 原因
  • 嘔吐(大部分が飲酒後)や腹部打撲などの急激な腹腔内圧上昇後に起こる

  • 症状
  • 突発的胸痛、呼吸困難、上腹部痛、背部痛

  • 胸部X-P、胸部CT
  • 水気胸、縦隔拡大、縦隔気腫、頸部皮下気腫

  • 治療
  • 緊急手術

【表6】急性心膜炎の要点

  • 概念
  • 心膜の急性炎症

  • 原因
  • 最も多いのが特発性(原因不明)、他に感染性(ウイルス性など)、
    若年女性では全身性エリテマトーデスを疑う
    ウイルス性ではコクサッキーB群が最も多く、しばしば心筋炎を合併する

  • 症状
  • 胸痛(左前胸部の鋭い刺すような痛み、吸気時に痛み増強、
    数時間~数日単位、座位で軽減、臥位で増強)、発熱、呼吸困難、嗄声

  • 所見
  • 心膜摩擦音

  • 心電図
  • ほぼ全誘導で凹型ST上昇(心筋梗塞では凸型ST上昇)
    心電図   心電図

  • 心エコー
  • 心タンポナーデ

【表7】急性心筋炎の要点

  • 概念
  • 心筋の急性炎症による心筋細胞障害

  • 原因
  • ほとんどがウイルス感染、特にコクサッキーB群が多い

  • 症状
  • 感冒様症状後1~2週間後の胸痛、発熱、呼吸困難など

  • 心電図
  • ST上昇、陰性T、房室ブロック(2度、3度)

【表8】たこつぼ型心筋障害(心筋症)の要点

  • 概念
  • 突然の胸痛、呼吸困難で発症し、心電図でも心筋梗塞の所見を呈するが、
    急性期の冠動脈撮影で冠動脈の狭窄・閉塞が認められないもの
    予後は良好

  • 疫学
  • 中年の女性に多い、精神的・肉体的ストレスのあとで発症することが多い

【表9】胸膜炎の要点

  • 概念
  • 胸膜の炎症、肺癌、肺結核、肺炎などが原因で起こる、胸水貯留がみられる

  • 分類
  • 癌性(肺癌)、結核性、細菌性(肺炎)、膠原病性の4つに分類される
    癌性と結核性が多く、この2つで60~70%を占める

  • 症状
  • 胸痛、他に咳、痰、呼吸困難など

【表10】縦隔気腫の要点

  • 概念
  • 縦隔内に空気が入り込んだ病態

  • 原因
  • 特発性(原因不明)が多い、続発性としては特発性食道破裂や胸部外傷など

  • 疫学
  • 特発性では若年者(10代後半から20代前半)が多い

  • 症状
  • 激しい咳嗽後の胸痛が典型的

  • 所見
  • 皮下気腫(握雪感)、心音に一致した捻髪音

  • 胸部X-P、胸部CT
  • 縦隔・皮下の空気貯留

【表11】逆流性食道炎(胃食道逆流症)の要点

  • 概念
  • 胃酸などの消化液が食道に逆流して胸焼け(胸痛)や吞酸が起こる病態
    食後、夜間、前屈位時にみられることが多い

  • 症状
  • 胸焼け(胸痛)、吞酸

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ABOUTこの記事をかいた人

福岡記念病院救急科部長。一般社団法人・福岡博多トレーニングセンター(福岡博多TC)理事長。 愛媛県生まれ、1986年愛媛大学医学部医学科卒。日本救急医学会専門医、日本脳神経外科学会専門医、臨床研修指導医。医学部卒業後、最初の約10年間は脳神経外科医、その後の約20年間は救急医(ER型救急医)として勤務し、「ER型救急システム」を構築する。1990年代後半からはBLS・ACLS(心肺停止・呼吸停止・不整脈・急性冠症候群・脳卒中の初期診療)の救急医学教育にも従事。2011年に一般社団法人・福岡博多トレーニングセンターを設立し理事長として現在に至る。主な著書に、『ニッポンER』(海拓舎)、『心肺停止と不整脈』(日経BP)、『ERで役立つ救急症候学』(CBR)などがある。