失神・失神性めまい3  失神・失神性めまいの原因疾患➀

前の2つの記事で、失神・失神性めまいの病態や鑑別診断などについて述べてきた。
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失神・失神性めまいの鑑別診断 失神・失神性めまいの原因を診断していくための鑑別診断は表5のとおりである。 【表5】失神・失神性めまいの鑑別診断 1、心・大血管疾患(心原性失神)   1)アダムス・ストークス症候群 2[…]

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ここからは、2つの記事に分けて失神・失神性めまいの原因疾患について述べていく。まずはこの記事で心・大血管疾患、循環血液量減少性疾患について説明し、次の記事で神経調節障害、起立性低血圧、薬剤(薬剤性失神)、脳血管障害、精神疾患、その他について説明する。

心・大血管疾患(心原性失神)

1)心原性失神総論

心・大血管疾患が原因で起こる失神・失神性めまいを心原性失神(cardiac syncope)といい、その病態は心原性ショック、または閉塞性ショックと同じである。心原性失神は重篤度において鑑別診断上最も重要な疾患群で、中でもアダムス・ストークス症候群(Adams-Stokes syndrome)が頻度的にも重篤度においても最も重要である。
アダムス・ストークス症候群以外には大動脈弁狭窄症、肥大型心筋症、虚血性心疾患(急性心筋梗塞、異型狭心症)、大血管疾患(胸部大動脈解離、肺塞栓症)などが重要である。アダムス・ストークス症候群の病態は重症不整脈性心原性ショック、大動脈弁狭窄症、肥大型心筋症、虚血性心疾患などは左心不全性心原性ショックの病態と同じである。他に胸部大動脈解離、肺塞栓症が原因疾患となる場合がまれにあるが、これらは閉塞性ショックの病態と同じである。ちなみに、失神患者における心原性失神の割合は10%前後と言われている1)。

2)アダムス・ストークス症候群

心原性失神の中で最も重要なアダムス・ストークス症候群について説明を加える。アダムス・ストークス症候群とは、重症徐脈・頻拍が原因で心拍出量が低下し一時的に脳循環不全を起こし、その結果として失神・失神性めまいや痙攣を起こしたものである。症状は、症候性徐脈、不安定な頻拍の範疇に入るような重症徐脈・頻拍が起こったときに出現するのが一般的である。アダムス・ストークス症候群を起こす重症徐脈・頻拍は図4のとおりである。

【図4】アダムス・ストークス症候群の原因となる重症徐脈・頻拍波形
徐脈

  • 洞性徐脈
  • 洞房ブロック、洞停止
  • 2度Ⅱ型房室ブロック、3度房室ブロック

頻拍

  • 心室頻拍
  • Torsades de pointes(多形性心室頻拍の亜型)
  • 特発性心室細動(Brugada症候群)
  • 発作性上室性頻拍
  • 心房細動

めまい図4-1

めまい図4-2

アダムス・ストークス症候群の原因となる重症頻拍は一般的には心室頻拍(単形性心室頻拍)、Torsades de pointes、特発性心室細動(Brugada症候群)のような心室性不整脈であるが、時に発作性上室性頻拍や心房細動のような上室性不整脈が原因となることもある。この徐脈・頻拍についての詳細説明は不整脈の章を参照されたい。失神・失神性めまいの訴えがあった場合は、第一にこの疾患の除外が必要である。症状出現直後の12誘導心電図で必ずしも上記の徐脈や頻拍が確認できるとは限らないため、24時間心電図が必要になる場合がある。

循環血液量減少性疾患(循環血液量減少性失神)

1)循環血液量減少性失神総論

循環血液量減少性疾患が原因で失神・失神性めまいを起こす病態は循環血液量減少性ショックと同じである。出血量の多いものは失神・失神性めまいではおさまらず意識障害に陥るため、循環血液量減少がそこまで著明でないものが失神・失神性めまいの原因疾患となる。具体的には最も典型的な原因疾患が消化管出血であり、鑑別診断を知っておかないと誤診の原因になる。

2)消化管出血による失神・失神性めまい

失神・失神性めまいの原因として消化管出血の頻度は決して少なくない。消化管出血で最も多い主訴は吐血・下血であるが、次に多いのが失神・失神性めまいである。吐血・下血があれば消化管出血の診断は難しくない。しかし、吐血・下血の症状がない場合、この鑑別診断を知っておかないと誤診する危険がある。
失神・失神性めまいをおこす消化管出血は急性のもので、その原因の大部分は消化性潰瘍(胃・十二指腸潰瘍)である。消化性潰瘍からの消化管出血では腹痛を訴えることは珍しく、多くは、吐血・下血で発見される。しかし、吐血・下血を起こす前に出血性ショックやプレショック状態になっていることも多く、そのような場合に、失神・失神性めまい、が出現することとなる。
この場合の患者の訴えとしては、「ふらふらする。」、「めまいがする。」、「立とうとするとふらふらする。」などが多く、このような訴えが、脳疾患(脳血管障害)による浮動性めまいと誤診される危険がある。また、起立時に失神・失神性めまいを起こすことが多いため起立性低血圧と誤診されることもある。これらの誤診を防ぐ方法としては次のことが重要となる。

3)消化管出血と脳疾患の鑑別

消化管出血による失神・失神性めまいが脳疾患(脳血管障害)による浮動性めまいと誤診される場合が少なくない。これに対する対策としては、非回転性めまいと診断した場合は、失神感(気を失いそうになる、気が遠くなる、ふらっとする)や眼前暗黒感(眼の前が真っ暗になった)がないかどうかを必ず確認して、浮動性めまいなのか失神性めまいなのかを正確に診断することである。判断不能の場合は両方の原因診断を行わなければならない。詳細はめまい(前庭性めまい)の章を参照していただきたい。

4)消化管出血と起立性低血圧との鑑別

消化管出血と起立性低血圧が誤診される場合も少なくない。起立性低血圧は一般的に慢性疾患である自立神経障害疾患や薬剤が原因で起こる病態であり(起立性低血圧の項を参照)、このような既往のない人が起立時に失神・失神性めまいを起こすことは考えにくい。よって、起立性低血圧の原因となるような自立神経障害疾患(慢性疾患)や薬剤の既往がない人が、起立時に失神・失神性めまいを起こした場合は、循環血液量減少性疾患、特に消化管出血をまず否定しなければならない。
消化管出血による失神・失神性めまいは循環血液量低下が原因で、起立することにより血圧低下が起こるため起立性低血圧と症状が類似する。この症状をそのまま、起立性低血圧と診断してしまうと誤診を招いてしまうので要注意である。また、これらの誤診を引き起こしやすくするもう一つの要因として、消化管出血では腹痛などの消化器症状が乏しいという事実である。このこともよく知っておいてほしい。消化管出血を疑えば、経鼻胃管(N-Gチューブ)を挿入してみる。消化管出血があれば、ほとんどN-Gチューブ内に黒褐色の胃液(出血)が流れ出し、この時点で診断が可能である。

5)脱水が原因の失神

脱水については、重要なものとして夏場の熱中症や高齢者の発熱(感染症)などである。特に高齢者の熱中症、感染症(多いのが肺炎)は要注意である。病歴、身体所見、血液検査から原因診断を行い対応する。