徐脈の概念と診断
これから2回にわたって、救急現場で大切な徐脈の概念と診断について説明していきます。
まず、この記事では「徐脈の概念と洞機能不全症候群(SSS:Sick sinus syndrome)」、「洞性徐脈(sinus bradycardia)」について説明し、次の記事で「房室ブロック(AV block:atrio-ventricular block)」と「徐脈の心電図診断アルゴリズム」について説明します。
徐脈の概念と洞機能不全症候群(SSS:Sick sinus syndrome)
徐脈は大きく分けて、1)洞結節・心房伝導異常と2)房室ブロックの2つに大別される(表6)。この中で救急現場で重要なものは、前述したとおり、洞性徐脈と4つの房室ブロック(1度房室ブロック、2度Ⅰ型房室ブロック、2度Ⅱ型房室ブロック、3度房室ブロック)の計5つである。これらの詳細は後述する。
【表6】不整脈の分類(洞性徐脈、洞性頻拍を含む)
ところで、徐脈を起こしうる病態に洞機能不全症候群という概念があるため説明を追加しておく。これは洞結節の慢性的な機能低下を主とする症候群であり、その分類を表10に示す。
【表10】洞機能不全症候群の分類(Rubensteinらによる分類)
この中で洞性徐脈は洞結節からの刺激が遅くなる状態で、洞房ブロック・洞停止は洞結節の刺激が心房に伝わらない状態である。洞房ブロックと洞停止の心電図波形の違いは表11のとおりで、洞房ブロックはその時間が短く、洞停止はその時間が長いものである。洞房ブロックと洞停止の心電図波形を図9に示す。
【表11】洞停止と洞房ブロックの心電図所見
【図9】洞房ブロック、洞停止の心電図
1、洞房ブロック
2、洞停止
洞機能不全症候群は高齢者にみられることが多く、加齢による心房筋の変性や繊維化が考えられている。治療は、必要であればペースメーカー植込みである。
2、洞性徐脈(sinus bradycardia)
洞性徐脈とは、洞結節から出る刺激が遅くなっている(60回/分未満)が、その刺激は確実に心室には届いていて、心電図ではP波とQRS波が1対1に対応しているものをいう(表12、図10)。
【表12】洞性徐脈の機序と心電図所見
【図10】洞性徐脈の機序と心電図
洞性徐脈の心拍数が遅くなると心臓が必要な心拍出量を送ることができなくなり、いずれPEA(無脈性電気活動)やasystole(心静止)になる危険がある。原因としては、虚血性心疾患、薬剤(β遮断薬、Ca拮抗薬など)、低酸素血症、血管迷走神経反射などがある。臨床的に重要なものは、何らかの原因があり症候性徐脈(後述)の範疇に入るもので、症候性徐脈に対する緊急治療と原因疾患の治療が必要である。
ところで、洞性徐脈には、ある原因が存在してそれにより引き起こされるものと、洞機能不全症候群の中に含まれるもの(特定の原因のない持続性洞性徐脈)の2つがある。救急現場で重要な洞性徐脈は前者であり、以後の洞性徐脈の記載は前者について行う。
さて、ここまで「徐脈の概念と洞機能不全症候群」と「洞性徐脈」について説明してきました。次の徐脈の概念と診断 ② 房室ブロックと徐脈診断のアルゴリズムで、「房室ブロック」と「徐脈診断のアルゴリズム」について説明してきますので、是非ご覧ください。
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